「コーチングが有効、効果的であるということの科学的なエビデンスはない」と言われている。これについて僕なりのエビデンスを書き綴ります。
まずは、コーチングの目的を改めて考えます。コーチングは「何のために」利用するのでしょう。僕は、「目標達成のため。」と定義します。
ICF(国際コーチング連盟)によるコーチングという行為の定義の文章の中に、「公私にわたり可能性を最大化する」という言葉が書かれています。
「公私にわたり可能性を最大化する。」原文の英文を表記します。
「to maximize their personal and professional potential.」
可能性を最大化する。可能性はポテンシャル(可能性としてもっている力:大辞林)という単語に該当します。
「目標を達成するために、能力を高めるということ」と言い替えることが可能です。
「能力を高める」ためにコーチングが寄与していることが、ロジカルに言えればエビデンスになります。
では、ひとつずつひもといていきます。
1)能力について
能力は、あらゆる分野に定義ができるからくせ者だ。この能力を「クライアントが望むゴールを達成する」ために「有効な能力」と定義する。
2)能力を構成しているもの
能力は大辞林によると「物事を成し遂げることのできる力。」とされている。物事を成し遂げるには以下の項目を挙げることができます。
物事を成し遂げるための力(達成能力)の構成要素を10個にチャンクダウンすると、以下のような項目が挙げられます:
- 目標設定 – 明確で具体的な目標を定め、それに向かうためのステップを設計する能力。
- 計画立案 – 目標に到達するための戦略や計画を立て、実行可能なスケジュールを作成する力。
- 時間管理 – 効果的に時間を使い、優先順位をつけて物事を進める力。
- モチベーション – 持続的に行動し続けるための内的な動機や外的な刺激を維持する力。
- 集中力 – 必要な時に目標に対して全力を集中し、注意を分散させずに取り組む能力。
- 忍耐力 – 失敗や困難に直面しても諦めず、継続して努力を続ける力。
- 問題解決力 – 遭遇する障害や課題を分析し、効果的な解決策を見つける能力。
- 柔軟性 – 予期せぬ変化や障害に対して柔軟に対応し、必要に応じて計画を修正できる力。
- リソース活用力 – 利用可能なリソース(人材、時間、情報など)を適切に使い、効率的に目的を達成する力。
- 自己管理 – 自分の感情やストレスを管理し、健全な心理的・身体的状態を維持し続ける力。
これらは、個人の成功に必要な基礎的なスキルや要素の一部であり、それぞれが連動して物事を達成する力に貢献します。
3)コーチングセッションが効果がある理由
ICF(国際コーチング連盟)によるコーチングの定義は、「クライアントの潜在的な可能性を最大限に引き出すため、クリエイティブで刺激的な対話を通じて、クライアントの個人的・職業的な成長を促す」ことを目的としています。これに照らし合わせると、コーチングは以下のように、先ほど挙げた「物事を成し遂げるための力」に対して非常に効果的な対話を提供すると言えます。
1)目標設定
コーチはクライアントに明確で実現可能な目標を設定する手助けをします。ICFのコーチングでは、クライアントの価値観や目的に基づいて目標を導き出し、実際に行動に移せるようサポートします。
2)計画立案
コーチはクライアントと共に、目標達成に向けた具体的な行動計画を作成します。コーチは質問を通じて、クライアント自身が最適な戦略や方法を見つけられるように促します。
3)時間管理
コーチはクライアントが時間を効果的に管理するための習慣やスキルを身につける支援を行います。これには、優先順位の設定や時間の使い方の見直しなどが含まれます。
4)モチベーション
コーチは、クライアントが内的な動機を明確にし、それを維持するための方法を見つける手助けをします。モチベーションの低下に気づき、再燃させるためのサポートも行われます。
5)集中力
コーチは、クライアントが目標に向けて集中できるように、現在の課題や気を散らす要因を明確化し、フォーカスを維持するための戦略を一緒に考えます。
6)忍耐力
コーチングの過程では、挑戦に直面したときの忍耐力を強化するための支援が行われます。コーチは、失敗や逆境を克服するためのレジリエンスを高める方法をクライアントと共に探ります。
7)問題解決力
コーチは、クライアントが自己発見やクリエイティブな思考を通じて問題解決に取り組む力を引き出します。直接的なアドバイスは避け、クライアント自身が最良の解決策を見つけるための質問を投げかけます。
8)柔軟性
コーチは、クライアントが予期しない状況や困難に直面した際に柔軟に対応できるよう、視点の変化や新たなアプローチをサポートします。
9)リソース活用力
コーチは、クライアントが周囲のリソース(人材、情報、時間など)をどのように活用すべきかを問いかけ、効果的な利用法を見つけるためのサポートを行います。
10)自己管理
コーチは、クライアントのストレス管理や自己ケアの方法を見つけ、健康な心理的・身体的状態を維持するためのサポートもします。自己管理の強化を促すために、クライアントの行動パターンや習慣を見直す支援が行われます。
また、知識、経験、創造力に対しても、のコーチングは次のように有効です。
知識に関しては、コーチはクライアントが既に持っている知識やリソースに気づかせ、それをどのように活用するかを引き出します。
経験を活かす際には、過去の成功や失敗を振り返り、それを次にどう活かせるかを共に探ります。
創造力については、コーチングの対話がクライアントの新たな視点や解決策の創出を助け、創造的な思考を引き出す役割を果たします。
コーチングは、これらの全ての要素に対して有効な対話を促進する手法です。
さらにエビデンスを深めようとすれば、心理学、脳神経科学からのアプローチが可能と考えています。
4)セッションで行う事が効果的に上記の能力を高める根拠
1)セッション間の行動を聞く(脳内記憶の喚起)
最新の脳神経科学によると、人の記憶はニューロン細胞のネットワークであることがわかっています。ニューロン細胞のつながりは、使えば使うほど多くなることがわかっています。
人間は目の前の事を重要視する習性をもっています。過去のこと、未来のことは重要視することが少ないのです。人は一般的に、現在の事象を優先し、過去や未来のことを軽視する傾向があります。このため、記憶は意識されにくくなり、アクセスが困難になります。即ちこれが意識できない記憶=潜在化します。
例え、今必要であっても記憶を呼び戻す事ができません。
脳内記憶を喚起するために、自らの出来事を語る。という方法があります。出来事をストーリーとして語ってもらう時間をコーチングセッションで設けます。
2)目標・目的を思い出す
コーチングセッションで、そもそもの目的、目標を訊ねます。
目の前の課題に集中していると、目標と現在の行動の関連性が見失われがちです。コーチが適切な問いを投げかけることで、目標や目的が再確認され、現在の行動と再びリンクされます。
現在の行動と目的が関連した記憶として認識されていきます。
3)現状を語る
現状を言語化することで、過去の経験や知識が現在の状況と関連付けられ、脳内での情報ネットワークが強化されます。これにより、潜在意識から顕在意識に情報が浮上し、意思決定がより確実なものとなります。
4)行動計画のパーツを思い起こさせます。
どんな手段をとれば、目標に到達するだろう。と想像させていきます。そして、いままで培った知識や経験を活かせば良いのかを、脳内ネットワークをつなげながら発案していくのです。
コーチとの関係性(信用・信頼・親密)な状態があることで、脳内にはセロトニンやドーパミンが分泌されていきます。セロトニンとドーパミンの分泌は、脳内での安心感と集中力を高める効果があります。これにより、創造的な発案が促進され、過去の経験や知識を基にした新たな行動計画が生まれるのです。
5)行動計画を作る
コーチからの問いかけにより、例えば「何から始める?」と問われ、目の前に集中している選択肢の発案から、選択肢の決断と行動計画の決定に意識が向くことになります。これは、一つのパラダイムシフトです。
脳内環境としてセロトニン、ドーパミンが分泌されている状況のままですから、集中力が高まっている状況で、行動計画の発案へと意識が移行します。
冷静で集中力が発露している段階ですので、脳内ネットワークは新たなネットワークを構築しようとする状態になります。行動計画を作る。という目標に対して、対話の中で行動計画を策定できた。という状態になっていきます。この状態で満足度が高まり、エンドルフィンが分泌され快感が訪れます。
行動計画が作成されることで、達成感と満足感が得られ、これが次の行動へのモチベーションとなります。この時点で、やる気を高めるドーパミンが分泌され、計画が具体化される満足感とともに、行動の実行が期待されます。
まとめ
以上のプロセスから、コーチングセッションでは、クライアントの目標達成に向けた行動計画を構築し、意欲的かつ主体的に行動を起こせる状態を作り出すことが可能です。セッションを通じて、クライアントの記憶や知識、経験が脳内で再構築され、それが現在の行動と明確に結びつきます。さらに、コーチとの信頼関係によってセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が分泌され、安心感と集中力が高まるため、創造的で効果的な行動計画が立案されるのです。
この結果、行動計画を策定する際には達成感が生まれ、ドーパミンの分泌がさらに促進されることで、行動に対する意欲も高まります。このようなプロセスが積み重なることで、クライアントは自ら行動に移す意欲が湧き、継続的な成長が期待できるのです。
コーチングセッションによって、クライアントは目標設定能力や行動計画を立てるスキルを効果的に高めることができ、最終的には自身の可能性を最大限に引き出すことができます。このように、コーチングはクライアントの行動力や学習能力を向上させ、結果として目標達成に向けたプロセス全体を支援する重要なツールであると言えるでしょう。
セロトニン: セロトニンは、脳内で感情や気分の安定、安心感をもたらす神経伝達物質です。ストレスを軽減し、リラックスした状態を保つ役割を果たします。コーチングセッションにおいて、クライアントとの信頼関係が構築されると、セロトニンの分泌が促進され、安心感と集中力が高まります。
ドーパミン: ドーパミンは、脳内で「やる気」や「報酬系」と関連する神経伝達物質です。達成感や成功体験を感じたときに分泌され、次の行動へのモチベーションを高める働きを持ちます。コーチングセッションで新しい目標や行動計画を立て、それを実行する段階でドーパミンが分泌され、さらに積極的な行動が促されます。