売らないと、選ばれる


― 判断を奪わない指導という選択 ―

指導の現場で、
「ちゃんと伝えているのに、選手が動かない」
そんな違和感を覚えたことはありませんか。

技術は教えている。
理由も説明している。
決して放置しているわけではない。

それでも、
選手の判断が遅くなったり、
自分で決めようとしなくなったりする。

この現象は、
指導力や熱量の問題ではないことがほとんどです。


判断できないのではなく、判断する余白がない

多くの指導現場では、
「より良い答えを、より早く伝えよう」とします。

しかしその結果、
知らないうちに起きているのが、

選手の判断の余白を、善意で埋めてしまうこと

です。

正解を先に示す。
結論を急ぐ。
迷わせないように整えてあげる。

その一つひとつは正しく、
必要な場面も確かにあります。

ただ、
選手が「自分で選ぶフェーズ」に入ったとき、
同じやり方が、思考を止めてしまうこともあります。


売り込みが強いと、人は選ばなくなる

この構造は、
指導だけでなく「売り込み」でも同じです。

強く勧められたとき、
人は一時的に動くことはあっても、
「自分で決めた」とは感じにくくなります。

判断は外に置かれ、
責任も外に委ねられる。

指導現場で起きていることも、
実はこれとよく似ています。


選ばせるとは、放任することではない

「選ばせる指導」というと、
放任・甘さ・責任放棄のように捉えられることがあります。

しかし、ここで言う「選ばせる」とは、

判断の環境を整えること

です。

・正解を与えない
・でも放置もしない
・考えるための“場”だけを残す

この環境が整うと、
選手の変化はとても地味です。

返事が少し遅くなる。
質問の質が変わる。
すぐに答えを求めなくなる。

派手な成果ではありませんが、
判断の質が変わり始めています。


この考え方が向いていない場面もある

誤解のないように言うと、
この関わり方は万能ではありません。

・安全管理が最優先の場面
・型をまず徹底させる段階
・短期間で結果を出す必要がある状況

こうした場面では、
明確な指示が不可欠です。

今回の話は、
「すべてを変えましょう」という提案ではありません。

ただ、
判断を担うフェーズに入った選手に対して、
別の選択肢がある

という話です。


売らない。急がせない。決めさせない。

売り込まない。
急がせない。
決断を迫らない。

これは、
指導を弱めることではありません。

判断の質を育てるための設計です。

もし今、
「少し与えすぎているかもしれない」
「考える余白を奪っていたかもしれない」

そう感じたなら、
それだけで十分です。

今日は答えを出さなくていい。
ただ、その違和感を覚えておいてください。


🎧 音声で聴きたい方へ

このテーマについて、
StandFMで約6分、
売り込まない/選択を尊重するという視点から
スポーツ指導の話をしています。

読むのではなく、
少し立ち止まって「聴く時間」として
使ってもらえたらと思います。