私のコーチングについて

スポーツにおけるコーチングと語源から解釈するコーチングの違い

言葉として”コーチ”の由来(1)

まずは、コーチングについてお伝えします。コーチングはコーチの進行形です。もとはコーチという言葉でした。諸説あるのですが、語源とされているのは現ハンガリーの”コチ”という都市の名前です。

大航海時代に交易の拠点の都市であったのが”コチ”だったそうです。このコチの名前が、どのようにコーチへと変遷していったのか。非常に興味のあるところです。

交易の拠点だったコチ。ここでは、荷物が集まり、輸送されていきます。輸送には馬車が使われていました。特別だったのが、馬車のサスペンションの存在です。製鉄技術が未熟だった当時、サスペンションの存在は高級だったのです。サスペンションを使った馬車をつかう荷物は高級品(大切なもの)です。

高級品(大切なもの)を運ぶ高性能な馬車のことをコーチと呼んだのだそうです。高級バッグの「COACH」は、ここからの由来になります。

ブランドのコーチ

言葉として”コーチ”の由来(2)

「コーチ」=「大切なものを運ぶもの(道具)」という認知が広まってきました。当時、イギリスの方たちがコチにもいたそうです。大切なものを運ぶ道具をコーチという。大切なもの=人。という解釈が入ってきます。人が望んだところに行けるようにしてくれる人。つまりは鍛える人。ということになります。

鍛えてくれる人の事を、”トレーナー”と呼んでいました。それが、スラングとして”コーチ”と呼ぶようになりました。それがコーチのいわれと言われています。

その後、コーチという言葉はアメリカに伝わっていきます。

1960年頃、アメリカで能力を伸ばすコミュニケーションスキルが整理され始めました。テニスコーチであった「ティモシー・ガルウエイ」という方が著した「インナーゲーム」「インナーゴルフ」がそれです。テクニックを教えても、なかなか身につかない現実を改善すべく、教え方、実行の仕方などを著しています。同時に同じように成長を促すためのコミュニケーション方法を研究する人たちがあるところに集まって、研究を始め整理することがすすみました。

これらのやり方を、「人が行きたいところへ到達するための成長を促す方法」としています。これを、大切なものを運ぶ道具と同様に解釈しました。「ある人が行きたいところへ到達する成長を促す人」のことを”コーチ”と呼ぶようになりました。コーチが行うコミュニケーション(ダイアログといったほうがいいかもしれません)スキルを”コーチング”と称するようになったのです。

日本のスポーツにおけるコーチングは・・

指導員を和英辞典で調べると複数の訳が出てきました。

a leader
a coach
a director
an instructor
a guide.
●フットボールの指導員(=コーチ)a football coach.
●スキーの指導員a ski instructor.

日本でいう指導者は、教え授ける人。導く人。という解釈になっているかと思います。

導く=教える、教え込む。

欧米で使われていたコーチ、コーチングは、日本にとって今までの文脈とは異なった方法での育成方法です。そのため、「目的地に運ぶ人」としての解釈が成り立たずに「技術やテクニックを教え込む人」として”コーチ”という言葉が使われてると私は解釈しています。

違いは?

欧米のコーチ:「人を目的地に運ぶ人(道具)」

日本のコーチ:「人にテクニックを教え込む人」

となっている可能性が高い。同じコーチングでも大きな隔たりがあると思えるのです。

国際コーチング連盟の倫理規定におけるコーチングの定義

「コーチング」— 思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと

もともとの語源と国際コーチング連盟の倫理規定におけるコーチングでも異なりがあります。ですが、私なりの解釈では、「運ぶ道具(人)」⇒「可能性を公私にわたって最大化する」なのです。

本来のコーチングとは

そもそもの意味を考えれば、「人を目的地に運ぶ人」です。その人が”なりたい””やりたい”を目的地とすれば、その人自身の能力が成長することになる。そのためには、効果的に知識を使える様になることが重要になってくるのです。

効果的に知識を習得し、工夫の仕方を創作できる状態になっている。

過去に得た知識、経験値を総動員して、パフォーマンスを発揮し、ゴールに到達することを支援すること。それが行為としての”コーチング”なのです。

基本としての役割は、「目的地に着くまで行動する人は、クライアント(アスリート)」「目的地に着くまでの能力を備える人はクライアント(アスリート)」。

「行動が継続するように、支援する人は、コーチ」「能力を身につけるモチベーションを維持するために存在する人は、コーチ」となるのです。

コーチングは、ノウハウを伝授することではない

コーチングの原則は個別対応となっています。なぜ、個別対応なのでしょうか?その疑問が湧いてきます。答えのひとつは、「個性がある」からです。そして、「時代が異なる」「環境が異なる」「対象となるものが異なる」などの理由だからです。

ノウハウがあれば、目的は自ずと達成できる。と思い込んでいる人がいます。この思い込みは、多くの場合失敗する原因をつくります。

ノウハウは、実際に行動した人のみに通用するものです。他人と同じ方法で、目的にアプローチしても達成できないのは”当たり前”のことなのです。

欧米では、この”当たり前”が浸透しているので、さほど問題は生じないのです。日本の場合は、「一流会社に入れば、人生は成功です。」とか、「有名大学に入れば、一流企業に入れ、人生勝ち組」とか、「親ガチャ」とか有る一定の環境があれば、人生勝ち組みたいな”思い込み”がはびこっています。

”楽に人生を生きる。”とかが”在る”という思い込みがはびこっているので、困ったものです。

ノウハウは、ノウハウを伝えている人が実行したから上手くいっただけで、他の人がやったからといって、上手くいく可能性が少ないのは自明の理です。

ですから、目的地に到達するために、目的地に行きたい人が自らの知識経験価値観特性を活かしたノウハウを自ら構築するしかありません。

コーチングとは、目的地に行きたい人が、その人がもっている知識経験価値観特性を生かし切るためのツールなのです。

記憶や経験を総動員する。関連付ける。工夫する。

記憶や経験、価値観、特性を総動員するとは一体どういうことなのでしょうか。このことに疑問を持っていました。

コーチングにおける会話量の目安というものが在ります。コーチ:クライアントの会話量の比率です。
3:7というのが目安です。クライアント(アスリート)がより多く話している状態を創り出すことです。

話す内容は、深掘り、具体化、感情表現、手順、優先順位、視点などになります。コーチはアドバイスをすることはほとんどありません。とすれば、クライアント(アスリート)がもっている知識や経験を材料にして話すほか在りません。

閑話休題

人の記憶と脳機能について触れておきます。人は見たいもの、聞きたいものを認識します。視覚情報は目を通じて脳に刺激として到達します。それらの情報を取捨選択して記憶します。情報を捨てているようですが、全ての情報(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)を脳は記憶していると言われています。

人の認識力には限りがあります。認識するのはその時に必要なものだけです。認識されていない記憶は、断片として脳のどこかに存在しています。

例えば、「今日出かけたとき、どんな人にであったの」と聞かれたら、脳は記憶の断片を探しに実買ったものを認識します。顕在化します。出あった後には認識しなくても、問われると思い出すのです。

問われなければ、そのまま断片として脳の中をさまよい歩きます。問われれば、顕在化するのが脳の記憶です。

話を元に戻します。

クライアントが、「適当な問いかけに答える」という行為をすることで、記憶の断片が関連した情報として整理されていきます。この状態を作りだすことが、コーチングの会話・対話になります。

関連記憶というものになると、断片が大きなストーリー(塊)になり情報として見つけやすい情報になります。

見つけやすい情報になることによって、より活用しやすい記憶になります。

見つけやすくなった情報であれば、活用しやすくなります。活用しやすくなる。工夫しやすくなる。これがコーチングの効用と言えるのです。

確証バイアスという、情報の活用を邪魔する習性

確証バイアスとは、人間が持つ習性です。

確証バイアス(かくしょうバイアス、confirmation bias)とは、人が自分の信念や仮説を支持する情報ばかりを選び取り、それに反する情報を無視したり軽視したりする心理的な傾向を指します。確証バイアスは、日常生活のさまざまな場面で現れ、特に意思決定や問題解決に影響を及ぼします。確証バイアスは人間の自然な傾向ですが、その影響を認識し、意識的に対処することで、よりバランスの取れた判断が可能になります。

確証バイアスは、別の視点でものを見たり解釈することを邪魔するものです。意識しなければ、私たちは確証バイアスに支配されたまま、物事を判断してしまいガチになります。

目的を達成したくて、行動を始めるとそれが”正しい”と認識してしまい、迷ったとしても”この道、このやり方が正しい”という状態になります。そのために、目的達成が果たせないことが起こります。

この確証バイアス対策が、コーチとの対話で行えるのです。

知識を習得する、活用するために必要な自己決定

必要な知識は、自らが取りに行くことです。人から教えられることは、知識として記憶に残せる可能性は低くなります。学校の授業を想像してください。

知りたくもないことを強制的に教えられる=つまらない。

知識の必要性を感じない=つまらない。

これらの状況で授けられた知識は、記憶に残る可能性が低いのです。ですから、何度言ってもわからない状況になります。

一方で、ゲームなど「やりたい」という感情の元に知り得た知識は、記憶に残ります。感情と記憶の深さは比例しています。知識を知りたい、増やしたいという感情がない状態での知識を授ける時間は無駄な時間になり得るのです。

私のコーチングは、このことに着目しています。コーチングは「人を目的地に届ける行動」になります。目的地は、その人がやりたいことができると認識している場所です。コーチングセッションでクライアントに対して、まずはじめに訊くのは「この時間をどのように使いたいの?」になります。そして、「この時間が終了した時点で、どんな状態になっていたいですか?」を訊きます。

欲しいもの、なりたいもの、をクライアントに決めてもらうのです。これができているからこそ、会話・対話する時間が、クライアントにとって有効な時間になります。

「欲しいもの、なりたいもの」感情と「話題」がリンクしている状況を作り出すことが可能です。この状況を作り出すことによって、話していることが記憶に刻まれていきます。感情は脳を活性化させるために必要な要素です。活性化している脳(発火しているともいいます)は、かつての記憶や経験を顕在化させることができ、ストーリーとして話すために”関連記憶”になり、さらに記憶が鮮明になって、思い出しやすくなってきます。

この状態を創り出すと、人は嬉しくなります。「アハ体験」というものを感じます。

知識を得ることに「喜び」を感じていくことになりますので、知識の習得が進みます。

コーチングの会話・対話はクライアントが自己決定するのが原則です。

自己決定は感情に好影響を与えます。脳に深く刻まれた記憶は、活用しやくすく(思い出しやすくなる)なるために、活用できる機会が増えていきます。

コーチングの会話・対話に出てきた話題や事柄は自己決定しているので、学習が進み、より効果的な活用が可能となるのです。

目的を果たすためにコーチングはある。

コーチは何のためにいるのか?コーチングは何のための行動なのか?これを念頭に置いておきたい。

コーチが決めたゴールに向かって、クライアント(アスリート)を導くことではないのです。導くっていうけど、どこに導くのか?そこが肝心なところです。

若年層だと、考えが甘いからお年寄りが導くとか先人が導くとかいうのは、”ない”です。ひとりの人間として、クライアント(アスリート)が果たしたい目的のために、実現するためにクライアントが効率良く辿りつく能力を備える、パフォーマンスを発揮するのを、会話・対話というツールを使ってサポートするだけです。

そもそも、クライアントが辿りつきたい場所を他人であるコーチが知っているはずもないのです。そして、辿りつくためのルートをコーチが知っているはずなどあり得ません。それを踏まえているのが前提です。

目的を果たすのはクライアント(アスリート)だから、目的を果たすための能力とパフォーマンスはクライアントが備えるのです。

しかし、クライアントは人間なので「確証バイアス」というやっかいなものを備えています。確証バイアスは視点を固定化し、視野を狭めます。これをコーチが対話により、確証バイアスの程度を下げていきます。

クライアントは人間のため、意識しなければ記憶を定着化させ活用することが困難です。この意識付けをコーチとの会話・対話のときに意識させ、記憶を定着させ、活用方法を編み出していきます。

クライアントは人間のため、感情により目的を見失いがちです。そんなときにコーチが定点観測するかのように、目的を思い起こさせる問いを投げかけて、目的(北極星のようなもの)を見つめ直していきます。これにより、目的を果たすための目標を設定することが可能になります。

クライアントは人間のため、自分自信を過信してしまいます。目標を実力以上に設定しチャレンジしますが、過信のため達成不可能な状況に陥り、諦めることとなります。コーチングの会話・対話で、適切な目標を設定することが可能になります。(目標設定の適正化)

脳神経科学からのコーチングの有効性

思考、運動、行動は、脳からの命令で行われています。コーチングによる会話・対話の時間で扱うテーマに対して、俯瞰的な、時間的な視点からの問いかけをクライアントに行います。

普段行わない問いかけや会話は、脳内の細胞の連結の数をふやします。これが、ネットワークの複線化・多線化を促します。さらに、頻繁に思考を巡らせるので、脳神経細胞内で発生する電気信号が伝わりやすくなります。これが思考の反応速度をあげることが想像できます。

さらに、脳神経細胞の連結の数を増やす効果が期待されますので、判断力、決断力、想像力などの機能が強化されるでしょう。

これらから、コーチングの会話・対話を実践しているクライアント(アスリート)は困難な課題が出現した場合の課題解決能力に差が生じることが期待できます。

スポーツの場合、想定外の状況は頻繁に発生します。想定外の状況に対する対応力(観察力、判断力、決断力など)に効果が期待出来る事になるでしょう。

さらには、落ち込んだ状況から回復する時間や失敗から得られたものを活用する能力にも長けていくことが期待出来ます。

コーチングはクライアントが目的を達成するために活用するもの

結論として、「コーチング」はクライアントが目的を達成するために活用するものということです。

コチの馬車と同じように、荷物に書いてある届け先に届くような、高性能なものなのです。

コーチングを活用するクライアント(アスリート)は、自らが目的を達成したいという思いがあれば有るほど、効果的になります。